調査概要

第1回・第2回・第3回・第4回ヨーロッパ都市街区内路地空間調査報告

はじめに

都市のオープンスペース(後述)には、その都市を代表するような中心的空間と、都市の部分空間を構成するものがあります。
前者はヨーロッパの都市広場に多く見られ、後者の部分空間は主にその空間の周囲に居住する人によって使われる路地空間がその一例です。
私たちは1990年から2005年まで全19回の海外都市広場調査を行い,前者,すなわち都市の中心的機能を担うオープンスペースを研究対象としてきましたが、都市全体のオープンスペースの構成を明らかにするためには、後者のような部分空間にも着目する必要があると考えました。
外周を道路で囲まれた都市の街区内には、通過交通の進入しない歩行者の空間が存在している場合があります。それは、外周道路に面して建築物が建てられていったとき、街区の中央部にできる閑地の利用であったり、あるいは街区をショートカットできる抜け道であったりします。
本研究は、こうした都市の街区内に形成された歩行者の空間を調査分析することで、その役割と空間的効果について明らかにし、将来的には今後の都市空間整備手法を導き出すことを目標としています。本稿はその一環として、2012年から2014年にかけて行った計4回の実態調査の結果を紹介します。

対象空間

都市空間は2つの領域すなわち建築物の建っている部分とそれ以外の空地から構成されていますが、空地はさらに山林や河川・自動車専用道路など一般的に人間の立ち入らない領域と、それ以外つまり人間の活動の場となる領域とに区別することができます。本研究では後者、すなわち人間の活動の場となる領域をオープンスペースと称します。
街区とは市街地で道路に囲まれた一区画のことです。その内側の土地は一般的に接道が難しいものが多くあります。しかしそれ故に通過交通の車両に利用されにくいオープンスペースとなっているものが見受けられます。
その街区の内側にアプローチするには、通常外周道路のいずれかから通路空間を経て進入することになります。この通路の延長には広がりをもつ空間、すなわち中庭空間が設置される場合もあります。本研究ではこれらを総称して路地空間と称することにします。路地空間は人間の活動の場となるオープンスペースです。
本研究の対象空間はこうした都市街区の内部に形成された路地空間の現在の姿です。それらの空間が果たす役割と効果について、現状空間の評価を通して明らかにしたいと考えています。

第1回の調査は2012年夏季(5都市)、第2回は2013年夏季(7都市)、第3回は2014年春季(2都市)、そして第4回は2014年夏季(3都市)において実施しました。第1回と第2回の調査結果については、昭和女子大学 学苑第885号において報告し、第3回および第4回の調査結果については学苑第897号において報告しています。

調査実施期間と都市、調査員

それぞれの調査期間と対象都市、調査員をまとめたものが表1および表2です。
chart01
【表1】

chart02
【表2】

調査内容

事前準備として、各都市や観光局のホームページの情報、あるいは関連文献、先行研究を参照して、対象空間を抽出しました。多くの場合はこうして現地調査前に位置や規模をある程度特定することができました。
現地到着後、以下の項目について調査員が分担して測定、撮影、記録等を行いしました。

測定
レーザー距離計およびコンベックスによって、幅員等の測定を行いました。事前に対象空間の図面あるいは地図が入手できていた場合は、その寸法確認となります。
撮影
対象空間のファサード連続写真、全体像のわかる代表写真、モノ・ヒト・出来事(行為)を対象とした部分写真を撮影し、記録しました。
記録
測定の結果(寸法)、周囲の建物(1階)の用途・名称、その他調査員の気づいた事項について、予め用意した調査シートに記入し、記録しました。
その他
いくつかの事例については、歴史や現状の管理状態などについて管理会社あるいは行政担当者へのインタビュー調査を行いました。
なお、現地調査では、対象が私的空間である場合も多く、実際に対象空間に立ち入ることができない場合もありました。

 
 
昭和女子大学 生活科科学部環境デザイン学科
金子研究室

本サイトに掲載している情報は、調査実施時のものです。現状では異なる場合があります。また当サイトでは現地での対象空間の見学等を保証するものではありません。見学等の場合には、現地での情報に従ってください。

謝辞
本研究はJSPS科研費24500929の助成を受けたものです。
 
参考
金子友美・芦川 智・菅井さゆり,都市街区における路地空間の利用と空間的効果に関する研究 第1回・第2回ヨーロッパ都市街区内路地空間調査報告,昭和女子大学學苑 885号,2014

金子友美・芦川 智・菅井さゆり・若林晴美,都市街区における路地空間の利用と空間的効果に関する研究(その2) 第3回・第4回ヨーロッパ都市街区内路地空間調査報告,昭和女子大学學苑 897号,2015
 
註釈
1)パリ市公式サイト, http://www.paris.fr/(2014/04/07)
2)パノラマ 近代の見世物のひとつで、遠景や動いている風景を表現する仕組みである。カンバスの両端にシリンダを設け巻き取ることで風景を移動させる仕組みや、円形あるいは多角形の建物の内部壁面を使い、その前に人形などを置いて展観させる仕組みがある。
3)ガッレリア galleria(伊) 屋根のある商店街や歩行者道路。
4)ドゥオーモ duomo(伊) 町の一番重要な教会、通常は司教座教会堂のことである。
5)パッサジオ passaggio(伊) 通路、道
6)ソト・ポルテゴ sotoportego(伊) 建物の下を通り抜ける道
7)ホフ hof(独)複数形はヘーフェ höfe 中庭、裏庭、構内(建物に付属して壁・塀などにかこまれた広場)