ヨーロッパ2012調査

02【リヨン】織物業者が商品を雨に 濡らさないようにつくった運搬通路
トラブール

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Written by showa_kanri

リヨンはパリ、マルセイユに次ぐフランス第三の都市で、人口は約48万人(2009年)です。ローヌ川とソーヌ川の合流点に位置します。
紀元前43年ローマの植民都市として建設され、交通路の要地として発展しました。15世紀に大定期市が開かれるようになり、16世紀にはイタリアから絹織物の製法がもたらされました。さらに18~19世紀には世界絹織物市場の中心地となった歴史をもちます。現在の都市中心部は、西側にローマ時代からの旧市街、ソーヌ川とローヌ川に挟まれた地区に都市の中心部であるペラーシュ地区、その東に工業地区が広がります。
リヨンにはトラブールtraboulesと呼ばれる抜け道があります。これは元々織物業者が商品を雨に濡らさないよう運搬するためにつくられた通路です。基本的にはその建物の住人たちの共用空間ですが、現在はリヨン市の計画で時間帯設定で開放しているものがあり、トラブールを巡るガイドツアーなども開催されています。このトラブールの歴史と現状について、リヨン市都市計画総局の担当者にインタビューした内容の要約を以下に記します。
・土地・建物は個人所有です。協同所有の場合もあります。(所有者6人に対して120人の居住者がいる事例もあります。)
・公開にあたってはグランリヨン(都市共同体)とリヨン市、所有者の3者の契約によって成立しています。
・公開対象となっているもののみ市が管理して照明器具の交換資金を出しています。グランリヨンは床の補修を担当しています。
・隣接トラブールとのつながりはありません。
・1990年代の初めにミシュランガイドに掲載されたことがきっかけになり、観光地化してきました。
・2011年の時点で45カ所のトラブールが契約し公開、80万人が訪れています。
・トラブールの数は500~600はあります。
・リヨン市としては公開するものを増やしたいのですが、改装済のものも多く、プライバシーの問題からも住民の合意が得られない場合もあります。
・1980~90年代にフランスの文化財に指定され、それ以降は無断で改装できなくなりました。(改装にはフランス国家公認建築士のチェックが必要です。)
・観光地としてあまりPRしすぎないように注意しています。
・新しい建物にもトラブールを設ける例があります。
私たちは22のトラブールについて調査を実施しました。
改装されレストラン街や店舗が入っているものや、歴史を示す看板などが設けられ整備されているものも少数見受けられましたが、多くは住宅の中を抜ける路地と中庭であり、集合住宅の共用スペースとして機能していました。ゴミ回収のためのコンテナが置かれているところもありました。

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showa_kanri

本サイトに掲載している情報は、調査実施時のものです。現状では異なる場合があります。また当サイトでは現地での対象空間の見学等を保証するものではありません。見学等の場合には、現地での情報に従ってください。

謝辞
本研究はJSPS科研費24500929の助成を受けたものです。

参考
金子友美・芦川 智・菅井さゆり,都市街区における路地空間の利用と空間的効果に関する研究 第1回・第2回ヨーロッパ都市街区内路地空間調査報告,昭和女子大学學苑 885号,2014

金子友美・芦川 智・菅井さゆり・若林晴美,都市街区における路地空間の利用と空間的効果に関する研究(その2) 第3回・第4回ヨーロッパ都市街区内路地空間調査報告,昭和女子大学學苑 897号,2015
 
註釈
1)パリ市公式サイト, http://www.paris.fr/(2014/04/07)
2)パノラマ 近代の見世物のひとつで、遠景や動いている風景を表現する仕組みである。カンバスの両端にシリンダを設け巻き取ることで風景を移動させる仕組みや、円形あるいは多角形の建物の内部壁面を使い、その前に人形などを置いて展観させる仕組みがある。
3)ガッレリア galleria(伊) 屋根のある商店街や歩行者道路。
4)ドゥオーモ duomo(伊) 町の一番重要な教会、通常は司教座教会堂のことである。
5)パッサジオ passaggio(伊) 通路、道
6)ソト・ポルテゴ sotoportego(伊) 建物の下を通り抜ける道
7)ホフ hof(独)複数形はヘーフェ höfe 中庭、裏庭、構内(建物に付属して壁・塀などにかこまれた広場)