ヴェネツィアは潟を埋め立てて築かれた島であるため、新たに土地を増やすことが難しく、建て替えや増築に頼るしかなく、浅瀬を埋め立てて歩道や運河沿いの道を増やしていきました。そのため運河や水路は次第に狭くなっていき現在のような都市の形態となりました。
ヴェネツィアでの調査は2012年に引き続き2回目となります。今回調査を行ったのはリアルト橋とサンマルコ広場およびグランカナルに囲まれたエリアです。観光客が通るメインの通りには多くのブティックやみやげ物を売る店が建ち並び、連日多くの観光客で賑わっています。しかしそこから一歩脇道に入るとヴェネツィアに住んでいる人たちの居住空間が広がっています。建築物の多くは隣家と壁を共有する連続住宅の形式です。そのため水路に囲まれた街区の内側に共有空間の通路や中庭空間を設け、そこから各住戸にアプローチする形式がとられる場合が多く見られます。今回の調査ではこうした通路や中庭空間を調査対象としました。
Sotoportego e Corte del Banchetto (他複数の名称あり)が位置するのは、サンマルコ広場の北側です。3つの小広場が細い路地でつながる空間です。小広場は店の裏庭になっていて従業員が休憩をとっていたり、住民同士が立ち話をしていたり、観光客の抜け道として利用されていたりしました。また小広場にレストランが増築されていたものもありました。
直訳すると「古いかまどの中庭」という意味になるCorte del Forno Vecchioは、住宅に囲まれた静かな中庭空間です。ソト・ポルテゴ(建物の下を通り抜ける道、学苑885号参照)を抜けると中庭空間に出ます。中央には井戸がありますが、現在では井戸としては利用されておらず、色鮮やかな草花が植えられていました。周囲の建物の窓や入口部分にも手入れされた植物が飾られていました。