ウィーンはオーストリア共和国の首都であり、ハプスブルク家オーストリア帝国の首都として繁栄した歴史をもちます。その歴史を反映して、旧市街には歴史的建築物や宮殿の建物が多く残っています。
そうした古い建築物には中庭が設けられていて、通り抜けができるような仕組みになっているものがあります。中庭に面してパウラッチェと呼ばれる回廊が付いているものもあります。ウィーンではリンクと呼ばれる旧市街を囲む環状道路の内側と外側で、中庭および通り抜け空間について、22事例調査しました。
リンクの外側に位置するアードラーホフは、階段状に並ぶ5つの中庭を10の階段が結びつけて、高低差のある空間となっています。建物は集合住宅であり、入口の表札から約180戸が入居しているものと推測されました。中庭にはところどころ植栽やプランターボックスが置かれていましたが、店舗などの施設はなく、静かな集合住宅の中庭でした。このアードラーホフは1874年に建てられました。
旧市街の中央にはウィーンのシンボルであるシュテファン大寺院があります。その南東に位置するブルートガッセ界隈は旧市街で最も古い部分です。ブルートガッセ3番地から入る中庭には、17世紀に作られたパウラッチェンハウスがあります。白い壁から張り出した黒いパウラッチェ(中庭に面した回廊)とその手すりに施された植物の緑が空間を特徴づけています。この中庭からさらに複合的に大小5つの中庭が連結し、周囲の道路には6つの出入口でつながっている空間です。